こんにちは、公認会計士の稲垣です。当事務所では、業務プロセス改善提案やシステム導入支援や上場準備支援、システム監査といったサービスを主に提供しています。ときにはクライアント企業の中に入って、問題点の洗い出しから改善策の提案、定着までをお任せいただくこともあります。
今回お届けするのは、発達障害やうつなどの困難に直面する方を支援する事業を営む株式会社キズキさまの業務改善とDX化の支援実績です。私がキズキさまを支援することになったきっかけや、支援の内容、そして変化について同社の取締役林田絵美氏との対談を実施しました。
スタートアップのスケールの段階で生じる問題や解決策についてお話しておりますので、ぜひ参考にしてください。
01.株式会社キズキのプロフィール
林田
当社は、うつや発達障害、不登校や中退、引きこもり、生活困窮などの困難に直面した方たちにサービスを提供しています。この他にも少年院内の学習支援や、貧困家庭の子どもへの塾で利用可能なクーポンの提供、奨学生制度なども展開しているんですよ。
林田
私がキズキに入社した理由は、社会課題の解決に意義を見出し、本業にしたいと考えたからです。前職の監査法人時代から、発達障害の当事者として、「発達障害者のための会計士の予備校を作りたい」と考えていました。このアイデアをキズキの代表の安田に話したところ、安田は「うつや発達障害で離職した人のためにビジネススクールを新しく作りたい」というビジョンを持っていることがわかったのです。
そして2018年にキズキビジネスカレッジをゼロから立ち上げるために、キズキに入社しました。キズキビジネスカレッジの開校は2019年4月のこと。2022年11月時点で、キズキビジネスカレッジは新宿御苑校・新宿校・大阪校・横浜校の4拠点になりました。
稲垣
僕と林田さんは四大監査法人の集まりで知り合いました。お互いに似た匂いを感じたんですよね。
林田
そうでしたね(笑)。知り合った後も友人同士でお肉を食べたりお酒を飲んだりとゆるく繋がっていました。
ご相談いただいた背景・抱えていた課題
スケールのスピードに業務フローが追いつかない
稲垣
僕は2021年7月からキズキさんに関わるようになったのですが、どうして僕にお声がけいただいたのでしょうか?
林田
稲垣さんはIPO支援や業務改善といった領域を得意としていたので、適任だと考えて相談しました。2021年のキズキは、私の入社時と比較すると、社員が3倍近く増えていました。しかしバックオフィスの仕組みは30人の頃と変わらない状況であり、今まで問題のなかったはずの業務がスムーズに回らなくなってきました。そのため、どうにか体制を立て直さなければならないなと思っていたんです。事業が拡大するスピードに、組織の最適化や業務フローの改善が追いついていない状態でしたね。
稲垣
僕自身は、安田代表や林田さんが「社会に役立つこの事業を自分たちで達成するんだ」という思いを持っていることを知り、協力したいと強く感じました。そして2021年夏頃から、業務改善やDX化に関わることになりました。
オントロジーからのご提案・具体的な取り組み
スモールスタートで組織を変える〜稲垣流業務改善の第一歩〜
林田
稲垣さんの業務改善の取り組みは全部門に対するヒアリングから始まりましたよね。社内にどういう業務があって、どのようなフローで進めているのかという点をヒアリングした上で、可視化してくれました。
稲垣
キズキさんにはさまざまな商流があって、それぞれに担当者も部署も別なんですよ。だからオペレーションも、属人的なもの、部署独自のものがどんどん生まれていました。そこを洗う必要があるかなと。
業務の洗い出しを行った結果、設立当初から続いている学習支援事業では、設立当初のオペレーションが残っていたことがわかりましたし、林田さんが立ち上げた就労支援事業でも拡大によってシンプルに作業量が増加していることも判明しました。
林田
そうそう。思いがけない手作業が発生していて、私自身も「えっ!?」って驚くこともありました。
稲垣
組織が大きくなってくると、業務の内容は把握できていても、細かいオペレーションまでは見えなくなってしまいがちです。とはいえ経営サイドのメンバーは、俯瞰的に次のステップに向かわなければならない。
だからこそ、僕が全部門に対してヒアリングを実施して、課題感や問題点を洗い出すことは、DX化において欠かせない要素でした。
稲垣
ヒアリングを行った結果、業務の各所にボトルネックが生じていることがわかりました。ボトルネックとは、業務全体の中で一番処理が詰まるプロセスのことを指しており、ここを直さない限りは後工程全体に影響を与えてしまいます。そのため、ボトルネックを発見したうえで、優先的に対応を行わなければいけません。
1つずつボトルネックを解消した1年
稲垣
この1年間はボトルネックの解消に努めていました。
林田
稲垣さんのやり方が良かったなと思ったのは、すぐに着手できる小さな改善を積み重ねて行けたことですね。
稲垣
そうですね。全部門に対してヒアリングを行った結果、すぐに着手できる改善事項と、部門を跨いで行う必要がある改善事項を把握することが出来ました。大きなシナリオや方針を立てたとしても、それを実行するためにはメンバーの協力が必要不可欠であり、まずはメンバーの負担を減らすことから始めないといけませんでした。そのため、まずは経理部だけで完結できる業務改善に注力しました。
稲垣
たとえばキズキさんはマネーフォワードクラウド会計を利用しているんですが、口座連携機能を使いこなせているか、業務の重複はないか、勘定科目の設定や債権管理の設定といった点も見ていきました。勘定科目でわけるのか、補助科目でわけるのかといった基本的な考え方の部分も見直しました。また、経理スケジュールについても前倒し出来る部分は無いか、分業できることが無いかなどの見直しを行いました。
その結果、月次決算の作業を月中に前倒しで実施できる箇所が増えて、月次決算時の作業を減らすことが出来ました。
稲垣
次に、他部署を巻き込む業務オペレーションの改善にも着手しました。経理は各部署から仕訳の元になる情報を集約しなければならないため、他部署のオペレーションが非効率だと、経理業務にも遅れが生じます。そのため、情報収集プロセスの見直しを図りました。
事業活動の根幹に関わる部分についてはお話することが出来ないのですが、話せる具体例を紹介します。例えば、支払業務に関しては、バクラクというワークフローシステムを導入することにより、バラバラだった請求書集約フロー及び支払依頼等の申請ルートを統一化することが出来ました。
稲垣
また、各部署からの売上情報の収集に関しては、業務スケジュールや各種フォーマットの見直しなど出来ることから行いつつ、平行してオペレーション改善のための中長期的な改善方針を立てていきました。こちらは具体的なお話をすることが難しい部分も多いですが、データの流れや業務のボトルネックの解消が中心になっております。
その結果、経理労務チームの残業時間を1年間で月100時間以上減らすことが出来ました。
林田
これはあくまでも稲垣さんが実行した業務改善の一例です。この他にも多数の業務改善を推進してくれて、1年間で大きく変化したなと感じています。
業務改善提案後の組織変化
DX化によってメンバーが作業者から推進者へ
稲垣
僕が関わるようになって、どんなところに変化を感じますか?
林田
正社員がどんどんルーティン作業を手放せるようになったんですよ! 稲垣さんが助けに来てくれる前は、社員が「業務改善しなきゃな……」と思いながらも日々の業務に追われて、時間が確保できない状況でした。ところが稲垣さんの取り組みによって、社員が業務改善に充てられる時間を確保できるようになったんです。これはすごくよかったです。
稲垣
僕もこの1年で同様の変化を感じています。社員の皆さんが自ら「この業務を改善するべきだね」といった提案を出せるようになったと思うんです。業務のコアな部分や管理部のオペレーションなど、小さく始められるところから業務改善に着手したことで、余裕が生まれて、それ以外の部署や業務についても改善しなきゃという流れができてきたんですよね。
そして、各事業の事業部長さんと、デジタル戦略部さんが協力する体制で、社内の業務全体を改善しようという動きになってきました。業務改善やDXは社員1人で成し遂げられるものではなく、全員の協力があってこそ成功できるものだと思っています。だからこそ、社として推進していこうという動きができているところが素晴らしいですよね。
林田
それから「経理や総務の担当者など、誰でも主体的に業務改善やDX化に取り組めるようになったこと」も大きいかなと思います。ノーコードを中心に業務改善を進めているので、コードを書けない人でも業務改善に取り組めるんです。
稲垣
そうなんです。僕自身もプログラムを書くことはありますが、複雑になると引き継げないんですよ。だから可能な限り、誰でも使えて誰でもメンテナンスできる仕組みを作ることが大切です。そうすることで、「組織全体でやっていこう」という機運も生まれやすくなります。まぁノーコードでも過剰に作り込むと引き継ぎが難しくなるため、どこまでやるかのバランスが重要ではありますが・・・(笑)
林田
この1年で明らかに、メンバーの仕事に対する向き合い方が変わったなと思います。みんな業務改善プロジェクトに積極的に関わってくれるようになりました。もともと作業者だったのが推進者というポジションに変わったなと思います。
稲垣
僕が感動したのは、僕が提言するまでもなく「このオペレーションに問題があるので、すでに改善を進めておきました」といった動きが出てきたことです。素晴らしいなと感じています。
会計士の仕事ってIPOやM&Aなど華々しい仕事もありますが、キズキさんで行ったような会社の皆様と膝を付き合わせて進めていく業務改善やDX化などは、会社の人と信頼関係を構築しながら進めることが出来る非常にやりがいのある仕事です。色々負担をかけてしまった部分もありましたが、それでも一緒に進めてくれたキズキの皆様に感謝です。
今後の展望・ビジョン
ファクトとロジックに基づく教育支援の実現に向けて
稲垣
キズキさんはDX化によって、どのような変革を目指していますか?
林田
キズキは不登校や中退した方のための学習支援や、発達障害やうつの方のための就労支援を展開しています。こういった事業を推進する中で「大切な3つのこと」を、DX化によって実現できたらと思っております。
1つ目は「学習支援事業や就労支援事業を全国に広げるために、ちゃんと啓発しなければならないこと」です。不登校や、離職によって「自分は周りと違う。劣っている」という感情を持ってしまうことは、再出発の妨げになると思います。私たちは、そういった方がキズキ共育塾やキズキビジネスカレッジに通うことで新たなキャリアを構築し、さらにその姿を見ている周囲の人たちも「自分もやり直せる」と思えるような社会を目指しています。その社会を実現するためには、塾やスクールの拡大だけでなく組織の拡大が欠かせません。
2つ目の大切にしていることは「自己満足の支援はしないこと」です。個人の主観に頼らない客観的な事実に基づいた支援をするためには、我々が事実を把握することが大切です。
3つ目は「個人に集積しがちな情報を共有する仕組み」です。どうしても現場では1人1人に情報が貯まりやすいのですが、これを共有する必要があります。
以上の3つの大切なことを実現するためには、DX化の推進によるデータの蓄積が欠かせません。さらにいえば、集約したデータを可視化して、現場の誰しもが確認できる仕組みが必要です。これを当社では「ファクトとロジックに基づき事業を推進する」と呼んでいます。
稲垣
たしかにファクトとロジックに基づくこととDX化の親和性はすごく高いんですよね。経済産業省もDXに関するレポートでも、DXは「データとデジタル技術を活用して、データつまりファクトをきちんと活用した上で、ビジネスモデルを変革して、その結果、組織や企業文化に影響を与えること」[1]と定義されています。だからキズキさんが取り組もうとしている、データの蓄積を企業の意思決定やアクションに繋げていこうする取り組みは、DX化のド直球だなと思います。
林田
そうなんです! 身近な事例でいくと、たとえば「入塾したいな」と考えていた方が入塾に至らなかったとき、「どうして繋げなかったんだろう」と私たちは検証します。すると「本人が希望しなかったからだよね」という結論に至りがちなんです。でも実は「キズキの提案内容がニーズに一致していなかったこと」が真実かもしれません。DX化によってデータを蓄積することで、個々のニーズのすりあわせやサービスの改善が可能になると思っています。
稲垣
あと、キズキの場合は理由なくデータを集めるのではなく、調べたいことがありきでデータを集めてますよね。それはデータ活用において非常に大事なことで、アウトプットから逆算して分析のための道具を集めることで、必要なデータを必要な形式で集めることが出来るんです。そうしないと、使いものにならないデータや、加工しづらいデータなどを用いざるを得なくなったりしますからね。実は自分もデジタル戦略部に関わることになったので、今後はデジタル面でもキズキをサポートしていきます。
[参考][1]https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf
DX化・業務改善でお悩みならお気軽にご相談ください
今回は、キズキさんと二人三脚で取り組んだ業務改善とDX化の内容について、お届けしました。
当事務所では、私が持つ会計税務の専門知識とITスキルを掛け合わせて、経営者様の創りたい未来をサポートしています。前段でお伝えしたとおり、業務オペレーションの見直しやシステム導入といった業務改善を行いました。
キズキさんのように、スケール途中のスタートアップ企業はもちろんのこと、これから事業を創ろうとお考えの起業家さまも、ぜひお気軽にお問い合わせください。フェーズに合わせたシステム導入の提案や、IPOを見据えた体制作り、業務プロセスの改善などは大好物! 喜んでお力になります。
稲垣
この度は対談の機会をいただき、ありがとうございます。まずは改めてキズキ様の事業内容を教えていただけますか?