IPOを少しでも考えた経営者が読むべき記事

はじめに

IPO(Initial Public Offering)とは、初めて株式市場に株式を公開(株式上場)することを指す。キャピタルゲインによる資産形成のメリットもあることからIPOに憧れる経営者も多いが、上場コストや上場維持コストの観点から必ずしも上場することがベストとは限らない。

そこで、本稿では、IPOをする前に理解しておきたい前提知識を説明し、そのうえでIPOを目指す際に考えるべきことについて解説を行う。

対象読者

  • IPOを目指したい経営者
  • 上場準備に携わる担当者

IPOとは

IPO(Initial Public Offering)とは、初めて株式市場に株式を公開することをいう。

令和3年6月時点で日本の企業等の数は約368万社なのに対して、令和3年3月末の上場企業数は3,822社しかないため、日本にある法人数0.1%の企業しか上場していない。また、ここ2020年から2022年までの年間上場数も102~136社程度であり、年間100社程度しか上場できないことから、上場は狭き問であるといえるだろう。

経営者は事業がうまくいくと証券会社や監査法人の担当者から「IPOをしませんか?御社ならいけますよ!」と営業が来るケースもあり、それがきっかけでIPOを目指すこともある。

だが、IPOを目指す前には一歩引いてシッカリ考えてほしい。IPOを目指すにあたるメリット・デメリットを理解しないうちに目指すことは会社の疲弊にもつながるし、経営者自らが上場する意義を見いだせなくなるケースもあり得るからである。そのため、上場企業の創業社長がMBO(経営陣等が株式を市場から取得して非上場化する方法)するケースも存在する。

例えば、2001年にNASDAQに上場した企業会計ソフトのビジネストラストは、2011年に、創業社長である吉木伸彦社長が設立した資産管理会社によるMBOを実施して非公開化した。

IPOのメリット・デメリット

IPOを実施するメリットとデメリットは以下の通りである。

IPOを行う際にはメリットばかりに着目しがちであるが、それよりもデメリットに着目していただきたい。

非上場企業の場合は経営者が株式の大部分を保有していることから、基本的になオーナー経営者として自由に経営を行うことが出来る。経営者は自らのやりたいことを実現するために起業を目指すことが多いため、自らが意思決定の旗振りを行うことを重要と考える人が多いだろう。

しかし、上場するということは、会社がプライベートカンパニーからパブリックカンパニー(社会の公器)となることである。つまり、不特定多数の利害関係者に対して、必要な情報を開示し、投資家の期待に応え続ける覚悟をもって、透明で成長性の高い経営をしなければならない。そのためには意思決定の透明化やガバナンス構築、高い上場維持コストを支払い続ける義務が生じることになる。

特にオーナー経営者にとっては、常に株主や世間から監視されていることによる「経営意思決定の迅速性、自由度の制約」といったものにより窮屈に感じることもあるだろう。

上場するために必要な要件

上場における実質要件

株式上場を行うためには、社会の公器として相応しい体制を構築することが求められる。例えば、東証のグロース市場における上場審査の実質基準では、以下のような体制が求められる(以下引用)。

  1. 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること。
  2. 事業を公正かつ忠実に遂行していること。
  3. コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。
  4. 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること。
  5. その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項

特に法令遵守・ガバナンス及び内部管理体制の強化、事業計画の策定の3つは非常にハードルが高く、会社が一丸となって体制づくりを行わない限り、上場企業として相応しい体制を作ることが困難になる。

また、上場準備を行うにあたり体制の見直しを行った結果、会社の課題がどんどん顕在化してしまい、上場スケジュールがどんどん後ろ倒しになるケースも発生しかねない。

したがって、そうした苦難が相応程度発生することを覚悟したうえで、上場準備に挑むことが重要になる。

制度会計への対応

また、上場のためには監査法人による財務諸表監査を上場申請の直前々期(N-2)から受ける義務がある。

監査を受けるためには、中小企業向けの会計ルールから、上場企業が適用するような制度会計に対応する必要があるため、管理部自体のレベルアップ及び採用が求められる。

特に制度会計に対応することは非常に難易度が高く、会計の専門人材を社内で採用することが上場において重要な要素であることは間違いない。特に昨今は会計制度が複雑化していることから、上場企業でさえも対応が困難になっているケースがある。

例えば、ウッドフレンズという企業は、決算体制が整備されていないことから以下のようなIRを開示する自体に陥ってしまった。

2023 年5月期に係る期末日前に決算・会計業務の重要部分を担っていた経理担当者が退職し、財務報告の作成に必要な人的リソースが不足する事態が生じたため、経験者の異動と外部リソースの活用により対応しましたが、財務報告の作成に必要な人員体制に関する認識が不十分であったため、決算財務報告に適切に対応できる必要かつ十分な体制を構築できておりませんでした。その結果、社内のチェック体制が不十分となり、複数の会計処理誤りが監査法人の監査の過程において判明しました。

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上場後にこのような自体に陥るのは投資家からの信頼を損ねる事になりかねないため、自社で制度会計にきちんと対応できる体制を構築することが必須であるだろう。

なお、監査法人に払う監査報酬はN-2期が1000万円〜1500万円程度であり、上場企業した場合には数千万円になることもあり得る(なお、上場企業の監査報酬の平均は約4800万円である)。

したがって、監査を受けるためのコストも鑑みて上場を判断するべきである。

上場コスト

また、上場準備に関しては非常に金銭的負担も大きい。例えばかかるコストは以下の通りになる。

  • 監査報酬
  • 管理部人材の人件費
  • 社外取締役や監査役の人件費
  • 社内体制構築にかかるツールやコンサルタントへの報酬
  • 印刷会社や各種調査に係るコスト

それに加えて、予算目標を達成することが上場において非常に重要であることから、業績伸ばしながら社内体制の整備コストを払う必要が出てきます。その矛盾をコントロールすることは非常に難しく、経営者は両者のバランスをとりながら事業を進めていく必要が出てくるだろう。

また、想定以上にコストがかかるのが管理部の人件費である。準備開始からIPOまでのスケジュールが短いほど、上場会社経験者、IPO準備経験者、公認会計士など、即戦力となる人材が必要になる傾向がある。

したがって、IPOを目指すと経営者が意思決定した際、まずは現状の自社の管理部門体制を把握し、スケジュールに応じた人材の採用計画を立てることが望ましい。

IPOするために考えるべきこと

これまでで、IPOのメリット・デメリット及び、上場するために必要な要件について述べてきた。それらを知った上でIPOをやるべきかを判断する必要がある。その際に考えて置くべきことは以下になる。

なぜやりたいか考える

そもそもIPOしたいのか?というのはシッカリと考えた方が良い。証券会社から営業が来た、投資家から求められる、知人経営者がやってるから、Exitのためなど色々なキッカケはあろうだろうが、目指す前には何故やるべきかをシッカリと考えるべきである。これらを考える時は、カッコつけないで自分の心に素直になることがオススメである。なぜなら、心から思ってることじゃないと上場後もモチベーションが続かないからである。特にIPOしてからは投資家からの目線が厳しくなることから、そのプレッシャー以上のモチベーションを維持する必要がある。

迷ったらやめた方が良い

筆者はIPOするか迷った場合にはやめたほうが良いと考える。なぜなら、IPOする道のりは非常に険しく、会社をガラッと短期間で変えることが求められ、金銭的にも精神的にもストレスになるからである。特にオーナー企業からする場合だと、オーナーの自由が多少制限される場面も出てくることから、自由を最重要視する経営者にとって、管理コストの増大やガバナンスの強化は窮屈に感じるだろう。

また、管理体制の整備を始めると、社内で軋轢が発生することがあり、場合によっては社内の人間関係が破綻することもある。

また、キャピタルゲインを得る場合にはM&Aという選択肢もあり得ることから、金銭的な理由でIPOを行う場合には他の選択肢を取ることも一つであろう。

すると決めたなら

それでもなお上場すると決めたのであれば、それに対して全力でコミットする姿勢を経営者が見せることが重要である。そのためには、業績を伸ばしながら経営管理体制を整備する覚悟を決めること、上場までの計画を決めることが重要になる。具体的には、上場までのスケジュールとかかるコスト、それまでの資金計画、採用計画、やるべきことをきちんと決めることが重要である。このあたりは非常に難しい判断が生じるため、適時専門家等の知恵を借りながら実施することが望ましい。

最後に

本稿では、IPOをする前に理解しておきたい前提知識を説明し、そのうえでIPOを目指す際に考えるべきことについて解説を行ってきた。IPOは非常に社会的意義のあることであるため、本気でやる覚悟がある場合はぜひともチャレンジしていただきたい。

また、弊社ではIPO支援サービスも行っており、少しでもIPOに興味のある方に向けた個別相談も行っております。

興味のある方は以下の問い合わせフォームよりご相談をお待ちしております。

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