資格試験で学ぶことは実務で使われるのか

はじめに

はじめまして!山田と申します。私は弊社でインターンをしている公認会計士試験合格者です。

4月から合同会社オントロジー(稲垣大輔公認会計士税理士事務所)のインターンをしているのですが、実際に働いてみると、資格試験の勉強を通して得た知識・イメージと実務に違いがあることを感じました。

特に、「資格試験で学習した理論上優れている計算手法が、実務ではほとんど導入されていない」ことが驚きでしたので、このあたりについて多めに語っていきたいと思います。

簿記・会計士試験だけでなく、あらゆる分野の資格を勉強している方にも読んでいただきたいです。

実務では「手間をかけたくない」が判断軸の一つになっている

会計処理において複数の選択肢があった場合、以下の理由により、会計基準で認めらている範囲内で簡便的な処理や法律などで求められる最低限の処理が選ばれることが多いです。

  • 原則的な会計処理を行うには時間も費用もかかり、それに見合った利点が得られない
  • 原則的な会計処理に必要となる情報の収集が現実的に不可能である

とはいえ、ここは会社ごとに文化が異なることも多いので、会社ごとのニーズを把握して選択肢を提供することが重要だと思いました。

また、簡便的な方法を選択しようとしても、実は会計基準等に基づくと適用できない場合もあるため、改めて原文等を読み込み、基準に基づいた適切な判断を行うことが重要だと感じました。このあたりは試験勉強が多いに役立つ部分であると思います。

会計処理における例

会計処理において、複数の方法が認められている場合があります。これらの中で、複数の方法が同列として扱われているものもあります。しかし、多くは会計基準で認めらてる範囲内で手間をかけない方法として「簡便法」「容認されている方法」として存在しています。また、リース会計の300万円ルールのように、業界ニーズや時代の変化に対応して例外が作られることもあります。

  • キャッシュ・フロー計算書(C/F) : 資金の流れを見る財務諸表の1つ
    • 連結C/Fを作成する際、原則法と簡便法の2つの方法があるがほとんどの企業は簡便法を採用しています。
  • 資産除去債務:有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生し、将来見込まれる支出を負債として計上したもの
    • 原則:資産除去債務と償却資産の両建て
    • 簡便法:該当する敷金が資産計上されている場合は、回収が見込めない部分を費用化
  • リース取引
    • 容認されている方法:リース契約1件あたりのリース料総額が300万円以下である場合オペレーティング・リース取引として処理することができる
  • ABC(活動基準原価計算) : 間接費の合理的な配賦計算手法
    • 伝統的な原価計算手法に比べて正確なコストを把握できるが、計算に必要な配賦基準である「活動」の把握が煩雑で上場企業ですら10%も導入していないのが現状です。

原則的な方法と簡便的な方法の双方が日商簿記検定1級や公認会計士試験で出題範囲になっているのですが、実は実務にふれるまで多くの会社が原則的な方法や理論上優れている方法を選ぶかと思っておりました。
例えば、ABCは理論問題で出題されることも多く、受験生は計算方法はもちろんABC誕生の背景や利点まで学習します。そのため、多くの企業(特に上場企業)において導入されている計算手法であるという印象を持っていましたが、現実はそうでも無かったようです。

理論的には優れている方法であるはずが、煩雑性や費用の問題から上場企業の間ですらほとんど導入されていない。この事実は、資格試験勉強で得たもので知識が偏っていた自分にとって衝撃でした。

なぜ理論上優れていることを学ぶのか

実務で使われていない方法を学ぶことは無駄だと感じるかもしれません。しかし、ゴールがわかっていることで、最短経路・要点をより早く見つけることができます。すなわち、理想となる型を知ることで効果的・効率的な方法を考えることができるようになります。

また、変化の激しい現代において、ルールや有効な手法もたびたび変化していきます。新しい状況や方法に適応しなければならない際、「以前までと何が違うのか」・「どのような点が要点となる変化なのか」をより早く理解することができます。

座学で学ぶ知識は、実務において「効果的・効率的な方法を考えられる材料」として捉えることが大切だと考えます。

また、最新の知識をキャッチアップするためには、原典にあたることが重要だと思いました。会計基準や税法等は、ネットですぐに解説記事がでてきてしまうけれど、あるべきを理解するためには結局原典にあたらなければなりません。そのため、実務をきちんと行うためには、原典を読むことが重要だと思います。

さいごに

本稿では、資格試験と実務の違いについて、経験をもとに記載いたしました。

現在、さまざまな資格の勉強をしている方がいると思います。今回は会計にまつわる事例でしたが、資格のために学習することと実態が異なるという状況はどの分野にもあることです。

資格勉強にとどまらず、「実務はどうなっているのか」「それはなぜなのか」をつき詰めることは重要なことだと考えます。

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