目次
1.四半期報告制度とは
四半期報告制度とは、平成18年6月14日に公布された法律の一部で、一事業年度を四つに区分し、四半期終了後に四半期財務諸表等を開示することを求める制度です。
金融商品取引法上で制度として法定化され、対象会社は上場会社とされています。
【旧制度の比較】四半期報告制度と四半期決算短信の違い
四半期報告書(法定開示資料) | 四半期決算短信(開示資料) | 比較 | |
---|---|---|---|
提出先 | 財務局(金融商品取引法) | 証券取引所 | 異なる |
対象会社 | 上場会社 | 上場会社 | 同じ |
開示時期 | 四半期決算短信より遅い ・決算日から45日以内に提出が義務づけられている | 四半期報告書より早い ・提出期限は、「45日以内が適当で、30日以内が望ましい」と規定されている | 決算短信の方が、即時性がある |
目的 | 適時な財務・企業情報の開示を確保 | 重要な会社情報を投資者に適時に提供 | 同じ |
開示方法 | TDnet上で電子開示 | EDINET上で電子開示 | |
開示する財務情報 | 四半期連結財務諸表 | 四半期連結財務諸表 (CF計算書は不要) | 決算短信の方が、簡潔 |
開示する非財務情報 (*1) | サマリー情報(業績予想含む) – 継続企業の前提に関する重要事象等 – – – – | 主要な経営指標等の推移 (事業の内容) (事業等のリスク) (経営上の重要な契約等) 財政状態、経営成績、CFの状況の分析(CFは2Qのみ) 株式等の状況 (役員の状況) | 決算短信の方が、簡潔 |
監査 | 四半期レビュー | 不要 | 決算短信の方が、簡潔 |
公衆縦覧期間 | 提出日から3年間 | ||
行政責任 | 重要な虚偽表示 :懲役もしくは罰金 提出しない場合:懲役もしくは罰金 | なし | |
民事責任 | 重要な虚偽表示:損害賠償 |
継続企業の前提に関する重要事象等
(*1)ある一定の条件下において、記載を要する
これまでは、上記の2つが並行することで、速報性と信頼性のいずれも高い水準で満たしていたといえる。 だが、これによって重複して作成される項目が存在していたことから効率的とは言い難い。
2.四半期報告制度廃が廃止?!
そんな四半期報告書制度の廃止に関する規定が、令和6年4月1日に施工されます。
では、四半期報告書制度の廃止に伴う影響は、どんなものがあるのでしょうか?
3.四半期報告制度廃止による影響・変更点
- 当面は、四半期決算短信を一律に義務付け
- セグメント情報・CF情報等を、四半期決算短信の開示内容として追加 これまで、四半期決算短信は、その後に四半期報告書が開示されることを前提に速報性の観点から開示内容が簡素化されてきました。 そのため、一本化後の四半期決算短信について、現行の開示内容のままでは、十分ではないとの意見がありました。 そこで、速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強いセグメント情報やキャッシュ・フロー情報について、四半期決算短信の開示内容を追加されました。
- 半期報告書の開示を義務付け これまで、四半期報告書の開示が義務付けられていたことから、半期報告書の提出義務はありませんでした。 しかし、四半期報告書の廃止に伴って、半期報告書の提出義務が課されることとなりました。
- 四半期決算短信は一律に監査人によるレビューを義務付けない 半期報告書と年度の有価証券報告書に対して監査人によるレビューや監査を行うことで、財務情報の信頼性を確保することができるため、第1・第3四半期における監査人のレビューを義務付けられていません。 しかし、会計不正や内部統制の不備が判明した場合には、信頼性の確保の観点から、四半期決算短信においても監査人によるレビューが一定期間、義務付けられます。 半期報告書のレビューの保証水準としては、保証ではなく結論として表明され、年度の監査よりも保証水準は低く位置付けられています。
- 四半期決算短信のより適切なエンフォースメントの実施 取引所においては、四半期決算短信の虚偽記載に対しては、エンフォースメントをより適切に実施していきます。 法律上のエンフォースメントについては、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合、現行でも金融商品取引法上の罰則対象となります。 ※エンフォースメントとは、実効性の確保のこと。
- 公衆縦覧期間の延長 半期報告書及び臨時報告書の公衆縦覧期間は、各報告書提出後からそれぞれ3年間・1年間であったが、課徴金の除斥期間である5年間へ延長されます。
旧制度と新度の比較
旧制度 | 新制度 | |
---|---|---|
四半期決算短信 | 開示義務なし | 開示義務あり |
セグメント情報やCF情報は開示しない | セグメント情報やCF情報も開示する | |
レビュー義務あり | レビュー義務なし | |
半期報告書 | 開示義務なし | 開示義務あり |
4.まとめ
速報性と信頼性の関係
・速報性については、四半期報告書が義務付けられていたが、四半期決算短信が義務付けられたことでそこまで、大きな相違はない ・違う点としては、レビューがされないところ ・レビューがされないことで信頼性に疑義が生じる恐れがある 「半期報告書と有価証券報告書の監査・レビューをするから、信頼性は確保できる」と書いてはいるが、投資家の要望の強い情報を四半期決算短信に追加したのであれば、レビューとまではいかなくても、ある程度、信頼性の面を担保する規定又は基準が必要なのではないかと感じた
四半期廃止の目的「一本化」
四半期報告書も四半期決算短信もセグメント情報の開示は求められる。 今までは報告書で開示したものを短信でも使えばいいけど、セグメント情報の充実を図るということは、その点についていえば業務量は増えるのではないか。 重複している項目が一本化されることにより、業務の簡素化というよりかは、重複した項目が省かれ、需要のある項目の開示が充実するため、経営者にも投資家にも監査人にも良い影響の方が大きいのではないかと感じた。
今後の開示ルールの検討
現状、適時開示は取引所のシステムに、臨時報告書を含む法廷開示は金融庁のシステムに提出することとなっているが、適時の情報開示の重要性が高まっているため、同じ情報を適時開示と臨時報告書とで二度提出することは避けるよう、制度譲歩整備やシステム連携によるワンストップ化に向けた検討が行うことが考えられる。
参考文献
1)金融庁.「四半期報告制度の概要」.2006.https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kansa/20060707/01.pdf .(参照2024/5/8)
2)金融庁.「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」.2024.https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20240327/20240327.html . (参照2024/5/8)
3)金融庁.「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告の概要(四半期開示)」.2022.https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221227/03.pdf .(参照2024/5/8)
4)東京証券取引所.「決算短信・四半期決算短信作成要領等」.2022.https://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/tvdivq0000004wuh-att/tvdivq000000up10.pdf .(参照2024/5/15)
5)金融庁.「事務局説明資料(情報開示の頻度・タイミング).2022.https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20220218/01.pdf .(参照2024/5/15)
6)金融庁.「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」.2022.https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20221227/01.pdf .(参照2024/5/21)