具体例で学ぶ内部統制:小売店の販売

はじめに

昨今、盗難、お金の横領による事件が後を絶えません。そこで今回は小売店で盗難・横領を防止するために日ごろからできることについて書いていこうと思います。

店舗での内部統制

小売店のビジネスモデルは、以下のような特徴があります。

  • 複数のアルバイトを採用して店舗を回していく
  • 現金やクレジットカードなど複数の決済方法が混在している
  • 現金を複数スタッフが触れる性質があることから、現金の盗難や横領のリスクがある
  • 在庫が店舗に展示されていることから、盗難や横領のリスクがある

このようなビジネスの特性上、小売店は以下の仕組みを整備する必要があります。

  • 在庫や現金の残高を適切に把握して本社に報告する体制
  • 盗難や横領リスクを下げるための体制

そのため、レジ締めや在庫管理のオペレーションに加えて、盗難を防止するための内部統制を構築することが求められるでしょう。

内部統制の基本的な考え方については、以下のリンクを参考にしてください。

内部統制の具体例

店舗ビジネスでの内部統制の基本的な要素を解説しましたが、ここからは具体的な内部統制を解説していきます。

現場における基本マニュアル

POSレジや在庫管理システムの導入

店舗ビジネスにおいては、販売数量・在庫数・決済手段ごとの売上金額の内訳を把握することが重要です。これらの管理は手で行うと非常に煩雑になることから、一定規模以上の事業者の場合、システム導入はほぼ必須といえるでしょう。

また、システム上の理論残高と実際の残高を照合するためのプロセスを日次・月次など定期的に行います。例えば、営業終了後のレジ締や、月末の棚卸の実施などは、これらの最たる例でしょう。

研修の実施

従業員の入社時に、実際の業務を実行するために必要な基礎知識を身につける研修を行います。この時には、レジ金の取り扱いや接客の基本・レジ締めや相互チェックといった基本的なルールから始まり、そこから店舗のカルチャーや組織文化にあった価値観なども提供します。

また、この時にコミュニケーションをこまめに取ることの重要性を説明するのがよいでしょう。情報連携や相談がしやすい雰囲気を作ることで、何かトラブルが発生したときの対応がスムーズになることが期待できます。また、個人的な信頼関係を築くことで、従業員不正を防止するための環境づくりに役立つでしょう。

盗難防止策

顧客による盗難防止策

財務報告に係る内部統制とは直接関係ないですが、店舗ビジネスを行う際には盗難対策を行うことも重要です。小売店では不特定多数の人々が店舗に出入りすることから、盗難されるリスクは非常に高くなります。そのため、盗難防止策を行うことが重要になります。

例えば、盗難対策の手段としては以下のようなものがあります。

  • 防犯カメラを設置する
  • 防犯カメラ設置中という掲示を店内にする
  • 顧客の目線と動きに目を配り、必要に応じて声をかける
  • 高額商品にはセキュリティタグをつける
  • 店頭にはダミーのみを置き、現物を確認したいときには店員がバックヤードから商品を持参する

防犯カメラの存在の周知および店員の声がけにより「ここは盗みづらい店舗だな」という印象を与えることが重要です。盗難常習犯は盗みやすい店舗をマークして犯行に及ぶため、警戒されているという印象を与えるのが有効でしょう。

また、高額商品についてはなるべく盗難されづらいように、店頭に設置しないことが重要です。例えば、宝石店などはバックヤードから商品を持参したり、防犯カメラが大量に設置してある部屋で接客するなど、様々な盗難対策を行います。

店員の盗難防止策

以外と侮れないのがスタッフによる内部犯行です。こうした犯行を防ぐために、以下のようなプロセスを行うことが重要です。

  • 休憩および退勤のタイミングで荷物検査を行い、商品の持ち出しをしてないか確認
  • 貴重品は一部上長以外が開けれれない金庫に入れて、営業時間中は常に鍵をかける
  • バックヤードに従業員用のロッカーを置き、営業時間内の手荷物の盗難を防ぐ
  • 定期的な現金実査により現金過不足が発生しやすい人を洗い出す
  • 棚卸により数量差異が出ていることを確認する(在庫管理していない少額商品や消耗品費などは意外と横領の対象になりやすい)

大事なのは従業員を犯罪者にしないことです。そのためには、不正のトライアングルをつくらないことです。不正のトライアングルとは、以下の3つの要素が揃ったときに不正を働かれやすいということを説明する理論です。

  • 動機
  • 正当化
  • 機会

例えば

  1. 借金がある(動機)
  2. パチンコで当たったらすぐに返す(正当化)
  3. 金庫が開けっ放しですぐに現金が取れる(機会)

という要素があれば、人は盗難をしたくなるでしょう。従業員を犯罪者にしないためには、不正のトライアングルのいずれの要素を防ぐこと、特に機会をつくらないことが重要になります。

不正のトライアングルをなくすために店舗で出来る唯一のことは、機会をなくすことです。そのために店舗は盗難防止策を講じることが重要になるでしょう

決済手段のための内部統制

レジ担当者を交代するときの現金過不足防止

店舗において現金の取り扱いは非常に重要です。釣り計算のミスや売上金額の計上漏れによる誤りが発生しかねない他、店員による横領の可能性もあることから、以下のような業務プロセスを構築することが重要になります。

  • 開店時に毎回決まった金額を釣り銭として管理する
  • レジ担当者を交代するタイミングなど、定期的に現金を数える
  • 中古業者の場合、買い取り用の現金・釣り銭・売上金を区分管理する
  • 閉店後に現金の区分ごとに実査を行い、過不足がないことを確認する
  • 本店への送金を行う際には、警備会社を利用する。もしくは、社員が2人1組になって銀行に行き送金を行う

ここまでやらなくても業務は回るかもしれないですが、大手小売業などはこれ以上にガチガチに現金過不足防止を行っています。例えば、セブンイレブンなどは店員が現金を触らないようなレジの設定にしているなど、徹底した管理を行っております。

決済手段の入金の照合

昨今は決済手段がかなり増えてきたことから、決済手段ごとの売上高と入金高を照合する必要があります。例えば、経理部では以下のような業務プロセスを行う必要があります。

  • 各店舗から決済手段別の売上額を入手する
  • 決済会社からの入金金額とPOSデータを照合する
  • 差異が発生した場合、その差異の理由を店舗に確認を行う

決済システムなら誤らないだろうとタカをくくっていると痛い目を見かねないため、理論上の決済額と実入金額を突合することは非常に有用です。

さいごに

ここまでで小売店における内部統制の具体例を解説してきました。

文字にしてみると「アルバイトしていた時によくあったなぁ」程度に思うかもしれないですが、多くのアルバイトを採用するからこそ内部統制を構築する必要があるのです。店舗マニュアルは経験から積み重ねた成果ともいえるでしょう。

実店舗での経験などが実は内部統制構築に役立つかもしれないので、一つ一つの業務の意味について考えてみると、実務がより楽しくなるかもしれないですね。

参考

警視庁 「万引き防止」  最終確認日:2024/07/26
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/manbiki/index.html

日本の飲食店を強くするFOODGYM「飲食店の不正行為とは?事例から事後対応、未然に防ぐ対応策」 FOODOAG 投稿日:2024/05/21
https://foodoag.com/management/2641/

ALSOK 「小売店でのおすすめ万引き防止対策を解説」 最終更新日:2024/01/24
https://www.alsok.co.jp/corporate/recommend/shoplifting-prevention.html

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