はじめに
世の中にはさまざまな会社がありますが、事業運営を行う上で必ず必要になるのが会計管理・経理処理かと思います。また会計管理・経理処理は会計システムやクラウド会計ソフトなどのテクノロジーサービスが隆盛したことにより、とても便利に事業運営ができるようになりました。
しかし、会計システムやクラウド会計ソフトが便利になったことにより、公認会計士・税理士の仕事が奪われると言われるようになりました。
少々古いデータですが、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が2013年に発表した論文で「機械が奪う職業ランキング」の第2位に会計士がランクインしています。
出典:週刊ダイヤモンド
この記事は2015年の記事なのですが、令和に入った現在でも税理士・会計士の仕事はなくなるのか問題が浮上しているのは事実かと思います。
そこで今回は、会計システムやクラウド会計ソフトなどのテクノロジーサービスが隆盛したことにより、会計士や税理士の仕事はどうなるのかについて、会計士自ら解説していきたいと思います。
- クラウド会計ソフトによって世の中がどう便利になったのか?
- クラウド会計ソフトによって税理士・会計士に求められることがどう変わったのか?
- 経営者側は税理士・会計士とどう向き合うのが適切なのか?
など、経理業務従事者に限らず、経営者の方々向けにもまとめてみましたのでぜひ読んでみてください。
クラウド会計ソフトによって何が便利になったのか
まずはクラウド会計ソフトによって何が便利になったのか、について解説します。著者が考える会計SaaSによって便利になったと感じるのは下記です。
- 口座連携・カード連携の手間がなくなった。
- PCにシステムをインストールしなくてもすぐに使えるようになった
- 他のシステムとの連携が容易に出来るようになった
- 手入力の数が減るため、人為的なエラーが減少する。
それぞれのメリットの詳細に関しては割愛させていただきますが、一言でまとめると「経理に関する作業工数(手入力の手間)が減り、どこでも経理処理ができるようになった」といえます。
そのためクラウド会計ソフトの恩恵を一番受けているのは経営者・経理担当者かと思います。クラウド会計ソフトの導入によって、以前よりリモートワークが行いやすくなり、経理から情報連携を待たずに会計情報にアクセスできるようになりました。
税理士・会計士報酬の変遷
しかし、今まで記帳や決算資料の制作を代行していた税理士・公認会計士はどうなるのでしょうか。ここで認識を合わせるために、税理士報酬の変遷について解説していきたいと思います。
税理士報酬が固定だった時代
実はかつて、税理士報酬は固定だったのはご存じでしょうか。平成13年以前は「税理士報酬規定」という制度が存在し、総所得金額や資本金等によって税理士が受け取って良い報酬金額が決まっていました。
出典:税理士報酬規定
しかし公正な市場競争を促すために、平成13年の税理士法改正に伴い「税理士報酬規定」は廃止されました。
格安税理士が台頭する時代
税理士報酬規定がなくなることによって台頭したのが「格安税理士」です。税理士報酬規定がなくなった事により、税理士も市場競争が起こるようになりました。そこで生まれたのが、税理士業務の1つである記帳代行・決算代行に特化し、報酬金額を可能な限り下げる手法です。
具体的に解説すると、税理士業務の報酬は、1顧客当たりの時間単価×工数をベースに決定します。そして、そのためには時間単価と工数を下げる必要があります。ではどのようにして下げるのかとおいうと、、
報酬を下げる変数 | 報酬の下げ方 |
---|---|
工数を下げる | コミュニケーションの量を減らす |
業務範囲を絞る | |
単価を下げる | アウトプットのクオリティを下げる。 |
クオリティチェックの時間をなくす。 | |
人件費の安い人に仕事をやってもらう。 |
その結果、、1人の税理士が抱えられる顧客数が激増しましたが、反対に顧客とのコミュニケーションが格段に減ってしまうという事態も起きるなどの問題が発生します。
クラウド会計ソフト時代
そして2010年代に、freee、マネーフォワードといったクラウド会計ソフトが台頭します。クラウド会計ソフトの台頭により、これまで格安で商売していた格安税理士の代行業務も楽になり、どの税理士も効率的な記帳ができるため、業界全体の作業スピードが向上した。
そのため作業のみを代行していた税理士・公認会計士は、これまでの記帳代行・決算代行ではは他の会計事務所との差別化ができず、別の付加価値をつけることが求められています。
会計士・税理士の存在意義が転換し始めた
前述したように、税理士・会計士はクラウド会計ソフトによって、これまで記帳代行していた業務では他の会計事務所との差別化ができなくなってしまいました。では税理士・会計士のお仕事はどのように変化していくのでしょうか。
結論からお伝えすると、「今まで税理士・会計士業務の存在意義が作業メインだったが、クラウド会計ソフトにより、課題解決などのコンサルティングサービスにシフトすることが求められる」のだと考えております。
では税理士・会計士だからこそできる課題解決(コンサルティング)とは何でしょうか?コンサルティングの一例は以下の通りですが、その他にも膨大な範囲の仕事があります。
- 会社のビジネスモデルに合わせたクラウド会計システムの導入支援
- 会社に関わる方々(経営者、投資家、債権者、税務局、従業員等)に合わせて経理情報を提供・示唆だしできる体制を構築
- 会社の経理情報を元に、会社のキャッシュを最大化するための提案
- 従業員を雇用する時にかかるコストや手続は何か?
- 銀行・ベンチャーキャピタルから資金調達を行うための戦略立案
- 年間で発生する税務スケジュールの通知
- 財務情報から損益予測や資金繰りを把握する
- 国際取引における税務上の論点洗い出し
- 新規事業における会計税務の論点の洗い出し
- マーケティング予算の決定補助
- 内部統制の構築支援
- システム監査の実施
- 監査法人・証券会社対応
税理士・会計士に求められること
前述したように、税理士・会計士に求められる支援内容が変わりつつあります。では今後、税理士・会計士は何が求められるのでしょうか、著者は下記のようなスキルが今後の税理士・会計士に求められるかと思います。
- 経理業務の専門知識・経験
- 専門知識
- 勉学によって培われた専門的な知識
- 経験
- 様々な企業の経理処理を行って培われた効率性や勘。
- 専門知識
- ビジネス理解
- 人とお金の移動
- ビジネスにおけるやり取りや、情報がどのように連携されるのか
- どのタイミングでビジネス上の取引が発生するのか
- ビジネス目的達成のために従業員がどのように動いているのか。(経営・人事的な視点)
- その結果、どのように収益・費用が発生し、どのように金額を測定するのか
- その結果・売上とキャッシュがどのように動くのか(BS的な視点)
- ビジネスを回すために、どの程度の資金が必要か(ファイナンス的な視点)
- 業界に関する理解
- 競合と比べて会社の強みはどこか。(マーケティング的な視点)
- さらに自社の強みを伸ばすためには、どれくらいのお金が必要なのか(ファイナンス、マーケティング的な視点)
- 人とお金の移動
著者の所感としては、今までは1.に記載した「経理業務の専門知識・経験」を土台とし、さらに差別化を図るにはビジネス理解をどうやって身につけるべきかを考える必要があると思っております。
また参考として、「経理の本分」では下記のように言及しています。
「経理部は倉庫業のように情報をストックするだけでとどまってはならないし、製造業のように価値ある情報を作り上げることにとどまってはならない。経理部は、各利害関係者に対して、期待を超えるサービスを提供するサービス業へ進化させなければならない。」
出典:武田 雄治「経理の本分」,中央経済社,2019/12/6
経理の本分でも言及されているように、「ただ記帳する」「ただ決算書類を作成する」だけでは、経営には活かせません。経理データはあくまでも経営を良くするためのデータであるべきですし、税理士・会計士のお仕事も経理データを作成するだけではなく、専門知識を生かしたコンサルティングサービスや、環境構築サービスへの転換が起き始めています。
おわりに:税理士・会計士と伴走することのススメ
以上、会計システムやクラウド会計ソフトなどのテクノロジーサービスが隆盛したことにより、会計士や税理士の仕事はどうなるのかについて解説していきました。
この記事を読んでいただいた方は、税理士・会計士の将来は、今後どのような経験をつけるかによって、明るい未来を掴めるチャンスが充分にあることがわかっていただけたと思います。また経営者の方々も今後税理士・会計士とどのように伴走すれば良いのか、一つの考え方がわかっていただければ幸いです。
しかし、日常の業務をこなしつつ、会計のことを考えるのは非常に大変ですよね、、当事務所では会計・税務処理だけに止まらず、システム監査技術者の資格を有している専門家がいることから、業務プロセス改善・システム導入・IPO支援に強みを持っています。
長期的に会社を存続させるには盤石な会計・ファイナンス体制は不可欠です。予実管理・資金管理体制が強い会社を早めに構築したいと願う会社様はぜひお問い合わせください。