人事労務プロセスにおいて、月次ルーティンとして給与計算が終わった瞬間に、仕事が終わったと感じる現場も多いという話を聞いた。しかし、給与計算をして振込したら終わりでは非常にもったいない。経営としての使い道が問われるのはその先である。そこで、本稿では、給与計算をどのように意思決定に用いるのかについて解説する。
給与計算が「振込んで終わり」になりがちな理由
先日、社労士の先生と一緒に登壇したセミナーで、給与プロセスの話になったところ、以下のような話を聞いた。
- 労務側では給与計算の漏れやズレが問題になる
- そのことから、勘定科目の取り扱いや部門集計、工数毎の管理などはほとんど行わない(やっても給与を受け取った会社が対応することが多い)
この混乱の原因は、担当者の怠慢では決してない。振込額を合わせることだけをゴールに設計されたプロセスに、後工程からの要求が一度も差し込まれていなかっただけである。
給与データは意思決定において重要な情報の一つではあるが、有効活用をするためには、経営者が欲しい形での変換と、それを行うためのデータの取得が重要になる。
給与計算という工程を「どこまでやれば完了か」を決めるのは、給与計算の担当者ではない。本来はそのデータを使う側、すなわち経営者が先に決めることだ。
給与データは経営のどこで使われているのか
給与データが向かう先は一つではない。財務会計の仕訳になるだけでなく、部門別・プロジェクト別の原価計算に使われることもあれば、人件費率や時間当たり売上といった経営指標の土台になることもある。
この行き先を先に決めていなければ、給与計算の担当者はどの粒度でデータを作ればいいか判断できない。部門タグを残すべきか、プロジェクトコードを付けるべきか——これは「経営者が何を見たいか」から逆算して初めて決まる話だ。目的が定義されないまま作られたデータは、後になって「これで何がわかるんだっけ」という状態になる。
情報はバトンリレーである
勤怠から始まり、給与計算、会計、管理会計、経営判断という流れは、いわばバトンリレーだ。リレーで大事なのは、次の走者が受け取りやすい形でバトンを渡すことである。
ところが、給与計算の工程では「自分の区間を走り切ること」だけが目標になりやすい。振込額が合っていれば、自分のバトンは無事に渡せたと考えてしまう。
次の走者である経理が欲しいのは金額だけではない。どの部門のコストか、どのプロジェクトの人件費か、といった情報だ。ここが揃っていなければ、経理担当者は毎月同じ確認作業を繰り返すことになる。
給与計算を意思決定に活用するためには
給与計算を担当する社労士と、そのデータを受け取る会計士とでは、見ている範囲が違って見える。しかしこれは、両者の意識の違いという話ではない。経営者が「このデータを何に使うか」を先に示していないから、それぞれが自分の持ち場だけを見て仕事をすることになっているだけだ。
実際、先ほどのセミナーでも、給与計算の後工程まで意識したことは通常ない、という話が出た。
部門ごとに人件費を按分してほしいという要望が経営者側から明確に伝わっていなければ、社労士側にその設定を組み込む理由がない。すれ違いの原因は担当者の視野の狭さではなく、全体設計を担うはずの経営者が、その設計をまだ渡していないことにある。
すれ違いを解消する方法は、以下の2つがある。
経営者と「このデータを何に使うか」という目的をきちんと共有する
まず最初に、経営者と「このデータを何に使うか」という目的を共有することが不可欠である。部門別に人件費を按分したいのか、将来的にプロジェクトごとの原価まで見たいのかなど、目的を先に伝えるだけで、社労士側はその粒度でデータを作る理由を持てる。
管理会計とは、言ってしまえば経営者の意思決定のために役立つ情報を提供することである。ゆえに、経営者がその目的を明確化するべきである。
情報を集めるための号令を経営者が行う
経営者が欲しい情報が明確になったとしても、会社としてその情報を集めるためのアクションを取る必要がある。例えば、プロジェクト損益管理においては、プロジェクトごとの稼働工数などを集めなければならない。
しかし、そうした情報の入力を従業員に求めると一定の反発があることも多いだろう(経費精算をいつまでも出さない従業員など)。そうした対応のために、経営者が「これは必要なんだ、皆協力してくれ」とサポートを行うことが重要になる。
経営者の本気度を見せないと、現場は動かない。
まとめ
給与計算はゴールではない。給与データを何に使うかを決め、それに向けてデータを集める仕組みを作るところから、経営は始まる。この設計は現場の誰かに委ねるものではなく、経営者自身が担うべき仕事だ。まず、今の給与データを最終的に何の判断に使いたいかを、一度言葉にしてみてほしい。
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