会計事務所におけるリモートワーク体制について考えてみた

はじめに

コロナ禍を経てリモートワークが促進されたことにより、会計事務所のリモートワーク対応が求められるようになった。しかし、公認会計士業界・税理士業界ではリモートワークの対応は手探りというのが実態で、特に中小事務所におけるリモートワーク対応が不足している事務所も多いだろう。

そこで、本稿では会計事務所向けのリモートワーク手段の解説を行う。なお、本稿では、総務省が発行しているテレワークセキュリティガイドラインをベースに解説を行うため、もし興味のある方はリンク先の資料を確認いただくのを推奨する。

テレワークセキュリティガイドライン第5版(総務省)

リモートワークの方式について

リモートワーク(テレワーク)には、様々な方式があるが、それらはすべて一長一短である。

会計事務所勤務の方も「前職ではこういう手段を使っていた」もいるだろうが、それぞれのメリット・デメリットなどまで理解するケースは多くないだろう。

ここでは、リモートワーク方式について紹介を行い、リモートワーク方式の種類について理解していただきたい。

会計事務所で使われがちなリモートワーク形式

VPN方式

VPN方式とは、テレワーク端末からオフィスネットワークにVPN接続(VPNとは、暗号を用いた仮想専用線を用いて通信を行う仕組み)を行い、オフィスネットワーク 内のファイルサーバやクラウドサービス等に接続し業務を行う方法である。

社内サーバーにアクセスする形式であることから、20-30年前の自前サーバーが主流の時に設定されることが多い形式であるといえる。そのため、中堅規模以上の歴史ある事務所などでは比較的使われる形式であるといえるだろう。

VDI方式

VDI方式とは、テレワーク端末からオフィスネットワーク内に設置された仮想デスクトップ(VDI) 基盤に接続し、当該基盤上のデスクトップ画面を通じて業務を行う方法である。

VDI方式はローカルにデータを保存しないことがメリットであるため、四大監査法人などで比較的よく使われる形式になっている。しかし、導入コストがやや高いことから、それ以外の事務所では利用されづらい傾向にある(とはいえAWS等で比較的安価にVDIを構築できるようになっているが・・・)。

クラウド方式

クラウド方式とは、オフィスネットワークに接続せず、テレワーク端末からインターネット上のクラウド サービスに直接接続し業務を行う方法である。

クラウド会計やクラウドストレージサービスを用いる会社は、このような形式で行うことが多い反面、ローカルPCへのデータダウンロードの問題はどうしても発生しがちである。

また、税務ソフトなどはクラウド化が進んでいないものがあるため、完全クラウド化は少々難しいのが実態となっている。

リモートワーク方式についての考案

ここまで紹介した形式は、会計事務所でよく取り入れられております。しかし、これらの問題点についてあまり語られていないのが実情です。そこで、筆者が様々な顧客と関わるなかで感じた論点について記載する。

VPN方式は現代では危ないといわれている

VPN方式は社内にサーバーを置いている会計事務所で行っている傾向にある。1990年代から2000年代にかけてはVPNは最新のセキュリティの仕組みだったが、現代においてはVPNの利用によるリスクが言われるようになった。 実はVPN機器の脆弱性をついたサイバー攻撃は多く、 ランサムウェア小劇では、インターネットに接続しているVPN装置が狙われるケースが多く、2022年中に警察庁に報告された被害では、VPN装置からの侵入が6割以上だったと言われている。

VDI方式はコストが高い

VDI方式は監査法人などでも利用されているが、中々コストが高いのがネックである。しかし、昨今はAWSなどを用いてVDI設計を行うことも多くなっており、仰星監査法人ではAWSのVDI機能を用いていることが発表されている。

ローカルPCのデータ保存を禁止する仕組みと組み合わせることで、PCに紛失時の情報漏洩を防ぐことができるため、機密情報を扱う監査法人などによく用いられている。

税務申告ソフトのクラウド型はそこまで手軽じゃない

会計ソフトおよびストレージソフトは、クラウド型が市民権を得ているため、会計事務所にもクライアントにも一般的になってきている。しかし、税務申告ソフトについてはまだクラウド化が完全に浸透しているとは言えない。

税務ソフトによっては、クラウド化することで追加料金が発生する(しかも結構高い)ため、そのおかげでリモートワークが進みきらない税理士事務所も多いと考えられる。

そのため、比較的安価にすむリモートデスクトップ方式などで、事務所内のPCと接続をする方法をする事務所なども存在している。

監査調書のリモートワーク対応については議論の余地あり

また、会計業務におけるリモートワークについて議論されているが、その中でも監査調書のデジタル化が論点になっている。中小監査法人においては電子監査調書システムを利用することが難しいことから、OneDriveやBOXといったクラウドストレージにおいて監査調書を保管している事務所が一定数存在する。

電子監査調書を導入している法人は、監査調書の封印・監査調書作成方針の従業員への周知徹底などを行うが、いわゆる運用でカバーという状態になっている箇所が多い。

今後協会としても、監査調書作成システムのベンダーにしても、検討の余地はあると考えられるため、発展の余地はあるだろう。

従業員への周知徹底

いかにリモートワーク対応のためにセキュリティ体制を整備したとしても、運用がうまくいかない限りは意味がない。したがって、従業員に対する教育体制の整備及び運用は非常に重要になっている。

そのための研修動画や資料などは、IPA等が十分に用意している絶え、これらを参考にしながら企業のセキュリティ教育を行うことが望ましい。

https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/study/company.html

まとめ

ここまで会計事務所におけるリモートワーク体制の紹介、リモートワーク導入のための論点について解説を行った。リモートワークを実施することで中抜けや子育て対応など、ライフワークバランスを考慮しながら仕事を行うことができるようになり、業務効率や採用優位性が上がるなども言われている。しかし、適切に体制を構築しないとリスクが生まれるため、適切な仕組みを構築する必要がある。

今後会計事務所もリモートワークを進めることはほぼ必須になると考えられるため、本稿を参考にしながらリモートワーク体制を整備していただきたい。

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