はじめに
業務標準化の観点から、業務マニュアルやフローチャートの作成は非常に重要です。フローチャートは、業務の流れを視覚的に整理し、効率的でわかりやすい業務進行を実現するためのツールです。しかし、初めてフローチャートを作成しようとすると「何をどう表現したらいいのかわからない」「各ステップの繋がりが見えない」などの悩みが生じがちです。本稿では、フローチャートの利点と作成方法について、わかりやすく解説します。
フローチャートとは
フローチャートは、業務やシステムの流れを視覚的に表現するための図です。複雑な業務を分かりやすく整理し、全体像を把握しやすくする利点があります。
以下は、フローチャートを使うことで得られる具体的なメリットです。
- 全体像の把握:フローチャートを使うと、業務プロセス全体が視覚的に把握できます。例えば、営業活動のプロセスをフローチャートで示すことで、顧客への提案から契約締結までの流れを一目で理解できるようになります。
- 業務の単純化:文字ベースの業務記述書と異なり、必要な情報に簡単にアクセスできるため、業務フローが複雑でも迅速に確認可能です。例えば、新入社員が初めて顧客対応を行う際に、フローチャートを使って基本的な手順を確認しやすくなります。
- 効率化と作業漏れ防止:作業の流れが視覚化されているため、次のステップを見逃すことなく進められます。例えば、会議の準備フローをフローチャートにすることで、準備段階で必要なタスクを漏らすことなく進行できます。また、フローチャートは「誰が何を行うか」という役割分担が明確になっているため、業務分掌が明確化されます。
活用場面
フローチャートは、シンプルに業務の流れなどを表すものです。シンプルで見やすい構造であり、社内共有の資料として使われやすく、様々な場面で利用されています。
例として、ソフトウェア開発や業務プロセス管理などが挙げられます。
また、フローチャートは内部統制の3点セットの1つで、「業務記述書」「リスクコントロールマトリクス(RCM)」と並び重要なものです。
上場を目指す場合、上場審査書類にも規程のフローチャートを作成する必要があります。
本稿においては、業務プロセスに関するフローチャートを作成するという前提で進めていきます。
フローチャート作成でつまずくポイント
フローチャートをいきなり作成しようと試みても難しいかと思います。
そこで、フローチャート作成でつまずくポイントと、それを防ぐための方法について解説をします。
1. 業務間のつながりが見えていない
各々の業務が存在することは認識していても、時系列や作業者・部署のつながりを詳細に把握していなければフローチャートを書くことはできません。
フローチャートとを作成する際には、各部署とコミュニケーションを取り、各業務の実施タイミング・担当者ごとの役割、業務上のつながりを理解するようにしましょう。
2. 理想と現場の現実が乖離している
経営層が理想的なフローを想定して作成しても、実際の現場作業と乖離してしまうことがあります。現場担当者へのヒアリングを行い、現状に即したフローチャートを作ることが重要です。
3. 業務手順が統一されていない
情報伝達が口頭で行われると、各担当者の理解にズレが生じることがあります。
フローチャートを共有し、業務内容の統一を図ることが効果的です。
4. 完璧を求めすぎて作業が進まない
最初から完璧なフローチャートを目指すと、細かい部分にこだわりすぎて挫折しがちです。まずは簡単な「たたき台」を作成し、徐々に詳細を埋めていくアプローチが効果的です。
フローチャート作成方法
フローチャートを作成するための方法は、以下のようになります。
1. 業務プロセスの全体像を洗い出す
まずは、ホワイトボードや紙に思いつくプロセスをどんどん書き出しましょう。このステップで作成したものを「たたき台」として活用することで、後ほどのコミュニケーションがスムーズになります。細かい部分は後から追加すれば構わないので、まずは全体の流れを大まかに把握することを最優先にしましょう。
2. 上長や他のメンバーにヒアリングを行う
1のステップで作成した「たたき台」をベースに、実際の作業を行う担当者やその上司にヒアリングを行い、「たたき台」を修正してきましょう。最初のイメージと実務のズレを反映することで、より業務実態を反映するフローチャートになるでしょう。
3. 「いつ・誰が」行う業務かを明確にする
フローチャートには、作業の担当者や実施タイミングがわかるように役割分担を明記しましょう。そうすることで、作業の役割分担や実施時期などがわかりやすくなる。ボトルネックを把握することが可能になります。
4. プロセスで作られる成果物の把握
業務の各段階で生成される成果物(報告書、資料など)をなるべく明示していきましょう。明示することで、業務に必要な成果物一覧と完成タイミングなどを確認しやすくなります。
5. 確認と修正
フローチャートを一度完成させたら、上司や関連部署に確認してもらい、不足している情報や改善点を反映していきます。
フローチャートは、業務記述書(マニュアル)が「存在している」又は「並行して作成している」ことを前提に作成します。
業務記述書(マニュアル)は業務プロセスにおける全工程を文書にまとめたものであり、フローチャートを作成するに当たって重要なものです。
フローチャートはあくまで、業務フローを簡潔に一覧化したものであるため、中身(詳細)がなくては本領を発揮できません。この2つはお互い密接に関係するものです。
実際につくってみよう
今回は、「法人税申告書の作成業務」を例に、フローチャートを作成するプロセスを理解していきましょう。
1. まずは担当者レベルで業務プロセスの全体像を洗い出す
まずは、たたき台を作成するために、スタッフ2名が実際の業務プロセスを書きだしていきます。
最初は思いつくことをとにかくどんどん書き出していくことが重要になります。
2. 上長に確認してもらい、追加・修正する
いったんスタッフレベルの洗い出しが完了したら、上長に内容をレビューしてもらいます。
大まかな流れは記載されていたのですが、上長が実施する業務など、スタッフでは理解していない箇所があるため、その内容を反映していきます。今回の場合では、レビューやクライアントとのコミュニケーションについて不足しておりました。
以上のプロセスを経て書き出したものが以下のメモです。
3「いつ・誰が」行う業務かを明確にする
業務のたたき台が出来たことで、フローチャートの作成に取り掛かりたいところですが、その前にグッと堪えて、誰がいつ行うかという点の整理を行いましょう。
- 登場人物の整理 税務申告書作成の場合、クライアント・事務所スタッフ(申告書作成者)・上長(レビュアー)が登場します。
- 担当者ごとの作業内容の整理 「自己レビュー」のような1人で完結する業務もあれば、「資料依頼・質問」のように複数の登場人物が出てくる仕事があります。特に複数人が関わる業務はお見合いになりやすいため、誰が主導するかを明確にすることで、お見合いがなくなります。
- 確認・修正 1回書いた後、上長・作業者など他のメンバーに確認をしてもらい、情報を更新していきましょう。
4. 成果物の把握
業務プロセスの中で作成する成果物は非常に重要になるので、ここではとにかく書き出しましょう。今回の場合は、赤字で作成するであろう成果物を明確にしてみました。
ここまでのプロセスで完成したフローチャートのドラフトは以下になります。
4.清書
最後に清書を行います。
フローチャートは業務等に変更があれば更新されるべきものであるため、修正のしやすいツールを用いることもおすすめです。今回の場合はCacooを利用しました。
まとめ
フローチャートは、業務の流れを視覚的に整理し、業務の効率化や作業漏れの防止に大きく貢献するツールです。業務プロセスを「見える化」することで、全体像の把握、役割分担の明確化、ボトルネックの発見など、さまざまな効果が期待できます。
最初から完璧なフローチャートを作成するのは難しいかもしれませんが、重要なのはまず「たたき台」を作り、各担当者とのコミュニケーションを通じて徐々に精度を高めていくことです。たたき台をベースに、現場担当者や上長に確認・修正を繰り返すことで、実務に即した実用的なフローチャートが完成します。
また、フローチャートは業務内容が変わるたびに更新し、常に最新の情報を反映することが大切です。フローチャートを通じて、業務標準化を進め、より効率的でわかりやすい業務体制を構築していきましょう。
弊社では、業務マニュアルやフローチャートの作成支援も行っています。ご不明点やご相談がありましたら、ぜひお問い合わせください。