経理担当者が突然退職してしまったので採用をした。そしたら半年後にまた辞めたからまた採用した。そしてまた辞めた。
こういう相談が私のところに良くくることがある。そうした会社にはいったい何がが起きているのだろうか? スキルが足りない人材を採用し続けているのか。給与が低いのか。それとも職場環境の問題なのか。
そこで、今回は経理が突然退職する会社にありがちな要因と、それらの対応方法について解説をしていこう。
少人数のうちは、誰も気にしない
会社の社員数が10人程度の場合、経理の仕事は「なんとなく事務担当がいい感じにやっている」状態で回ることが多い。
社長が自分で確認する。創業メンバーが兼務する。外部の税理士が月に一度来て帳簿を整える。それだけで十分に回る。
この段階では、経理の「仕組み」がなくても問題が顕在化しない。社長の目が全体に届くからだ。
人が増えると「雑務の集積場」になる
ところが、組織が拡大するにつれて状況が変わってきてしまう
流石に兼務では回らなくなってしまうから、専任の経理担当者を採用する流れになるだろう。すると「その人がいるから」という理由で、さまざまな仕事が集まってくる。経費精算のリマインド、給与計算、請求書の処理、銀行対応、役所への書類提出。「事務っぽいこと全部」が経理の机に積まれていく。
それでも最初は回るのかもしれないが、組織がスケールするにつれて業務量が正比例で増加していく。その結果、ある次点でキャパシティを超えることになり、突然経理が「もう無理です」と辞めることになる。
これは経理担当者の能力の問題なのか?それは違う。
本当の理由は、これらの仕事の多くが「誰が、どのように、どんな流れでやるのか」整理されていないことだ。ルールもなく、引き継ぎ書もなく、ただ「前任者がやっていたから」という理由で仕事が継承される。その結果、仕組みがないまま業務量だけが増え、限界がきてしまう。
退職ループの6フェーズ
筆者が、現場でくり返し見てきたパターンを整理すると、経理担当者の退職ループは以下の6フェーズで構成される。
フェーズ1:担当者が業務量に圧倒される
採用したての担当者が、仕事の全量を把握しようとする。しかし、引継書が存在しない(あってもメモ書きレベルで全体像がわからない、何がどこにあるか誰に聞けばいいかもわからない。ノウハウは既に退職している前任者の頭の中にあり、資料は断片的にしか残っていない。社長に聞いても「わからないから良い感じで進めてね!」と丸投げされる。
この段階で「どうすればいいんだろうか」と天を見上げることになるだろう。
フェーズ2:繁忙期に燃え尽きてしまう
慣れるにつれて日常業務の処理は何となくできるようになる。しかし月末・決算期・年末調整等の時期になると、日常業務に加えて残業時間が激増する。その結果、「気合でなんとかしているが、いつ改善するのだろうか」という状態が続く。改善を提案する余裕もなければ、それを聞き入れてもらえるのかもわからない。
フェーズ3:改善を試みるが止まってしまう
流石にもう限界がきたので、「この業務を何とか整理できないか、便利そうなツールを導入したい」と経営者に提案をする。しかし、経営者は忙しく、目の前の売上や業務に追われていることから優先度が上がらない。「ちょっと考えさせて」と言われて何度放置されただろうか。その段階で担当者の心はもう折れてしまう。
フェーズ4:退職する
そして限界を超えた担当者が退職を申し出る用になる。経営者も「ちゃんと引き継いでください。私も採用をがんばるので」と本来の課題に向き合わないでその場しのぎの対応になる。その結果、引き継ぎは不完全なまま終わる。「資料は作りました」と言われても、それを読んで再現できる人がいないし、そもそも業務の本当に辛い部分は引継書の外にあるのだから。
フェーズ5:新しい担当者が同じ荷物を背負う
新しく採用した担当者が、整理されていない業務の山を引き受ける。その人も業務の全体像がわからぬまま業務を進めることになってしまうため、同じ問題が再現される。前任者が感じた無力感を、また別の誰かが感じ始める。
フェーズ6:ループに戻る
数ヶ月から1年で、また燃え尽きる。また退職する。経営者は「また良い人材が採れなかった」と感じる。しかし問題は人材ではなく、仕組みにある。そのことに気づくのはいつだろうか。
ループが続く会社に足りていないもの
退職ループが止まらない会社に共通しているのは、「誰が何をやるかの設計がない」ことだ。
マニュアルがない、という問題だと思われがちだが、正確には違う。マニュアルを作る前に整理すべき「業務フローの設計」がないのだ。何をシステムが自動でやり、何を人間がやり、その中で何を経理担当者がやるのか。この設計がなければ、マニュアルを作っても「前任者のやり方をそのまま文書化したもの」にしかならない。
もう一つ足りていないのは、「経営者が経理の仕事を自分ごとにしていない」ことだ。
経理担当者だけが頑張っても、月次決算を早めることはできない。売上データを渡してくれない営業、経費精算を締め日に出さないスタッフ、承認を後回しにする管理職。これらは経理の問題ではなく、会社全体の仕組みの問題だ。この問題に立ち向かうためには、経営者が動かなければ変わらない。
【自社診断】退職ループに入っているかを確認する
以下の項目に3つ以上当てはまる場合、すでにループの中にいる可能性が高い。
- 経理担当者が過去3年以内に2名以上退職している
- 経理業務の全容を書き出した資料がない
- 会社の業務オペレーションの全体像が文書化されていない
- 月末・年末に経理担当者の残業が著しく増える
- 経理において「この処理、なんでこうなっているの?」という質問に答えられる人がいない
- 経費精算・売上データの提出期限を守らないスタッフがいる
- 経理業務の改善提案が、後回しにされ続けている
- 次に経理担当者が辞めたら、すぐに困る自信がある
ループから抜け出す最初の一手
退職ループを止めるために、今すぐできることがある。特別なシステムも追加のコストも必要としないので、自社の経理でお悩みの方はお調べいただけると幸いだ。
1. 経理業務の全容を棚卸する
「この会社の経理担当者は、何をやっているか」を書き出す。月次・年次・随時に分けて、全ての業務を一覧にする。やってみると、「これは本当に経理がやるべきか」という仕事が必ず出てくるだろうし、何なら「経理が原因じゃなくね?」というものがでてくるだろう
2. 「本来誰がやるべきか」を問い直す
棚卸した業務を見て、その業務を、経営者・管理職・営業・現場・経理と、適切な担当者に振り分け直す。例えば、経費精算などは「全従業員が2-3分頑張れば良い」ことであるため、これを徹底して全従業員に振り分ける形にするのも一つだろう。また、請求書などは「こちらのフォルダに期限内に提出してください。あげないものは支払いませんし、上げない人の責任です」とルールを明確化するのも有効である。
このようなルールを定めることで、経理担当者が「情報を作り出す人」ではなく「情報を整理する人」であることを、組織として確認する。
3. 経営者が関与する仕組みを作る
最後に、経営者がこうしたオペレーションに責任を持つことが重要である。例えば、月次決算のスケジュールを経営者と共有する。「何日までに何が揃わないと決算が締まらないか」を可視化する。経理担当者が一人で抱えている問題を、会社全体の問題として扱う。資料をいつまでも出さない担当者の人事考課を下げるなどだ。
このように、負のループから抜け出すためには、組織全体として業務の仕組みを整え、運用する体制を作ることが重要である。組織全員が整備運用するプロセスであることを忘れてはならない。
まとめ
経理担当が定着しない問題は、人材の問題ではなく仕組みの問題である。退職ループは上記の6フェーズで繰り返される構造的な現象であり、採用を繰り返すだけでは止まらない。
採用以前に、マニュアルを作る前に業務フローの設計が必要で、経営者が関与しない限り経理担当者だけでは変えられない。
「うちも同じ状況かもしれない」と感じた方は、まず業務の棚卸しから始めてみてほしい。何から手をつければいいかわからない、社内だけでは整理が難しいという場合は、オントロジーへ気軽にご相談ください。経理体制の現状診断から、改善の優先順位づ経理体制の現状診断から、改善の優先順位づけまで対応している。
経理部の残業時間を月100時間削減した事例などは、以下に記載されているので参考にしてほしい。
また、決算早期化などでお悩みの方は、以下のコンタクトフォームからお気軽にお問い合わせください。