決算早期化は「経理の問題」ではなく「経営者の問題」だという話

決算早期化のプロジェクトを何度か経験してきたが、成功する会社には共通点がある。経理担当者の能力や人数ではない。「決算早期化を経営者が自分の問題として捉えているか」、そして「現場が動けるように後押しができているか」——この2点が、成否を分ける。

この記事では、決算早期化がなぜ経理だけでは進まないのか、そして経営者が「動けない」理由を整理する。

経理担当者だけでは決算早期化が進まない理由

月次決算を早めるには、会社全体の情報の流れを変える必要がある。売上データを早く渡すのは営業だ。経費精算を締め日に出すのはスタッフ全員だ。承認を滞らせないのは管理職だ。在庫を正確に早く集計するのは現場だ。経理担当者は、これらの情報が揃って初めて仕事ができる。

しかし現場に「月次を早めてほしい」と頼んでも、「経理の都合でしょ」と受け取られることが多い。中には「金を稼いでいるのは現場。経理は後処理するだけ」という認識の部署もある。そうした風土が根づいていると、経理担当者がいくら催促しても、誰も動かない。

経営者が「これは会社の仕組みとして変える」と宣言して初めて、決算早期化は動き始める。では、その宣言はなぜなされないのか。そこに構造的な理由がある。

(月次が遅い原因の詳細は、本シリーズ #3「月次決算が遅い本当の原因は経理の外にある」を参照してほしい。)

経営者が「自分ごと」にならない3つの心理パターン

決算早期化が止まるとき、経営者の動きを妨げているのは悪意でも無関心でもない。多くの場合、ある種の「心理的な合理性」がある。現場でよく見るパターンが3つある。

パターン1:会計が「わからない」から触りたくない

経営者が会計を苦手とするケースは珍しくない。「税金を計算するための書類」程度の認識で止まっており、月次数字を経営判断に使うイメージがそもそもない。気が向いたときに「資金繰りはどうなっている?」と聞く程度で、月次決算の中身には踏み込まない。

苦手なものには近づきたくない。これは自然な心理だ。ただ、その回避が積み重なると、月次の遅れが「経理の問題」のままになり、経営者が手を入れる機会を失い続ける。筆者の経験上、資金ショートに陥る会社の経営者はほぼ例外なく、会計数字に距離を置いていた。

パターン2:「今まで何とかなってきた」という慣れ麻痺

月次決算をやらない、年度決算しかやらない状態が2〜3年続くと、それが「普通」になる。「今までやれてきたから別に問題ない」という判断が、無意識のうちに固定される。

この状態が厄介なのは、問題を認識していないから解決しようとしないことだ。慢性的な遅れは痛みとして感じられなくなっている。気づいたときには経理担当者が燃え尽きており、退職届を受け取ってから慌てることになる。

パターン3:「現場が好き」というアイデンティティ

「売上はすべてを癒す」と言われる。それ自体は正しい部分もある。ただ、現場の熱量を大切にする経営者ほど、バックオフィスの数字から目が離れやすい傾向がある。「俺は現場に出てなんぼ」というアイデンティティが、管理側への関与を遠ざける。

結果として、プロジェクトの業績や原価率を月次で確認することなく、「なんとなく利益が出ている」「なんとなく忙しい」という感覚だけで経営が続く。売上は追っているが、コストを見ていないため、忙しいのに利益が残らない状態に気づかない。

月次決算が遅いことの「本当のコスト」

経営者が「動けない」でいる間、何が起きているのか。「月次が遅い=経理がちょっと不便」と捉えている経営者は多い。だが実際のコストは、経理の外側にある。

月次決算が7営業日で出る会社と20日かかる会社では、年間の経営判断の質が根本的に違う。具体的には以下のような状況が毎月起きている。

  • 今月の売上が予算比でどうかを確認してから来月の採用判断をしたいが、数字がない
  • 資金繰りを見据えて先の3ヶ月を計算したいが、今月の着地がわからない
  • ある部門のコストが膨らんでいることに気づくのが1〜2ヶ月遅れる
  • 原価率が悪化していても、誰も気づかない
  • 月初の経営会議に「今月の着地見込み」を持ち込めない
  • 採用・解約・値上げのタイミングを感覚で判断し続けることになる

決算早期化は「経理の効率化」ではない。経営判断の精度を上げるための投資だ。月次が20日に出る会社は、毎月20日間、古い情報で経営している。

動けないまま放置した結果起きること

3つの心理パターンのまま経営者が動かないとき、経理担当者は恐らくストレスが溜まるだろう。その結果、「もう限界です」と退職することもある。

経理担当者は会社によっては発言力がないことも多い。特にバックオフィスの少ない中小企業ではそれが顕著だ。「月次を早めたい」と思って動いても、誰も協力してくれない。売上データを早く渡してほしいと頼んでも「経理の都合でしょ」と言われる。経費精算の締め日を設けても守られない。承認を依頼しても後回しにされる。自分の努力では変えられない構造の中で、毎月精一杯動き続ける。そして限界が来る。

問題は、退職が起きてもその原因が「経理担当者の適性の問題」と解釈されてしまうことだ。「やはり人材選びに問題があった」と採用の反省に向かう。しかし本当の原因は、変わらなかった構造にある。次の担当者が入っても、同じことが繰り返される。

(本シリーズ #1「経理担当が定着しない会社に共通する「退職ループ」の構造」で詳しく書いています。)

経営者が最初にやる「たった1つのこと」

では、何から始めればいいだろうか。まずはこの一言だけで聞くことをおすすめする。

「月次を早めたいんだけど、今業務上一番詰まっているプロセスはどこですか?」

これさえ聞けば、経理担当者は答えを出してくれるだろう。売上データが来るのが遅い、経費精算を催促し続けている、承認が後回しになる——具体的な場所と理由を持っている。ただ、誰も聞きに来ないから、どうしようもないと感じていることが多い。

経営者が直接聞くことには2つの意味がある。一つは、問題の所在を正確に知ること。もう一つは、「経営者がこの問題を自分ごとにしている」というメッセージを現場に届けることだ。この問いへの答えが、経営者が次に何をすべきかを教えてくれる。データ連携の仕組みを変えるのか、承認フローを設計し直すのか、経費精算のルールを明文化するのか——問題の場所が変われば、打ち手も変わる。

専門家に相談する

「何が詰まっているかわからない」という場合は、専門家に相談することも一つの手だ。社内にいると「これが普通」と思い込んでいる業務フローが、外から見ると明らかなボトルネックだった、ということは珍しくない。経営者も経理担当者も、その状態に慣れてしまっているからだ。

オントロジーでは、月次決算早期化・社内のデータ活用・経理体制の構築を支援している。「どこから手をつければいいかわからない」という段階からでも対応できる。

支援事例:株式会社キズキ(経理残業100時間削減) / 株式会社メロン(月次2週間→4〜5営業日に短縮)

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まとめ

決算早期化は、経理担当者だけでは進まない。会社全体の情報の流れを変えるには、経営者が動く必要がある。ただ、経営者が動けないのも理由がある——会計が苦手だから、今まで何とかなってきたから、現場が好きだから。どのパターンも「悪意」ではなく「心理的な合理性」から来ている。

その心理を変えるきっかけは、難しくない。経理担当者に「一番詰まっているのはどこですか」と一度聞くことだ。その答えが、経営者がやるべきことを教えてくれる。「経理に任せてある」から「自分の問題として動く」への転換が、決算早期化の成否を分ける。

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参考資料

  • 経営管理シリーズ 骨子案(社内資料)
  • 「崩壊する経理の立て直し方」稲垣大輔 講演資料(2023年5月)

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